コラム — シリーズ第1回

在宅医療法人に
DX推進部ができるまで

2026年5月|医療法人おひさま会 DX推進室

「DX」という言葉が来る前から、現場は動いていた

おひさま会にDX推進部が正式に発足したのは、2026年4月のことだ。

だが、デジタル化の取り組みはそれよりずっと前から始まっていた。2025年2月、法人として初めてAI業務自動化プラットフォームを導入。同年10月にはDX推進の専任担当者を採用した。

そして2026年1月、AIコーディングツールを導入してからの加速が凄まじかった。わずか5ヶ月で51のシステムが稼働するまでになったのだ。

この記事では、中小の在宅医療法人でDXがどのように芽生え、組織化に至ったかを振り返る。

第1章 — 始まりはAI業務プラットフォームの導入

紙からデジタルへの変化
在宅医療は、病院以上に紙の文化が根強い。訪問看護ステーション、ケアマネ事務所、薬局——連携先のほとんどがFAXで情報をやり取りしている。1日に数十枚届くFAXを、事務スタッフが1枚ずつ仕分けてカルテに貼り付ける。毎日のことだ。

おひさま会のDXは、2025年2月のAI業務自動化プラットフォームの導入から始まった。訪問看護の記録やワークフローの電子化が進み、「デジタルって便利だ」という感覚が現場に芽生え始めた。

ただ、この時点ではまだ「外部ツールを導入した」段階だ。本当の変化は、その後に訪れる。

DXの最初の一歩は、「特別なこと」ではなく「便利なツールを使い始めること」だった。最初から壮大な計画はいらない。

第2章 — AIコーディングツールがすべてを変えた

成長の階段
2025年10月、DX推進の専任担当者を採用。そして2026年1月、AIコーディングツールを導入した。ここから爆発的な加速が始まった。

AIコーディングツールがあれば、「こういうの作れない?」と言われたその週には動くものを渡せる。レントゲン依頼のフロー管理、FAXの自動仕分け、保険証のAI判別——次々に現場の声がシステムになっていった。

従来なら外注して数百万円・数ヶ月かかるシステムが、数日で動く。この圧倒的なスピードが、現場の信頼を一気に掴んだ。

わずか5ヶ月で51システム。2026年1月〜5月の間に、FAX自動分類・カルテ自動作成・保険証AI撮影・問い合わせ管理・通話履歴AI要約・定期書類自動生成など、法人の業務を網羅するシステム群が一気に立ち上がった。
2025年2月
AI業務自動化プラットフォーム導入
訪問看護の記録・ワークフローの電子化が始まる。DXへの第一歩。
2025年10月
DX推進の専任担当者を採用
「現場の課題をシステムで解決する」専任ポジションを設置。法人としてDXへの本気度を示す。
2026年1月
AIコーディングツール導入 → 開発加速
レントゲンナビ・FAX自動分類システムが最初に完成。「1週間で動くものが出てくる」スピードに現場が驚く。
2026年1月〜5月
5ヶ月で51システムが稼働
月19.5万円のRPAツールも内製で置き換え。コスト削減と柔軟性を同時に実現。
2026年4月
DX推進部 正式発足
システムの数と影響範囲が拡大し、組織的な運営体制が必要に。入職からわずか半年での組織化。

この急速な成長を可能にしたのは、3つの要素の掛け合わせだった。

  1. 経営トップのビジョン — 理事長がDXに積極的で、新しいツールの導入を即断できた
  2. AIコーディングツール — 従来の10倍以上のスピードで開発できる環境
  3. 現場の協力 — 「こんなの作れない?」と言ってくれるスタッフがいた

第3章 — 理事長が「DX好き」だった幸運

中小医療法人でDXが進むかどうかは、経営トップの姿勢で8割決まる

おひさま会の場合、理事長自身がテクノロジーに強い関心を持っていた。新しいツールのデモを見せると「面白いね、すぐやろう」と言ってくれる。この一言が、どれだけ現場の推進力になるか。

多くの医療法人で聞く話:「IT担当がやりたくても、院長が『うちは紙でいい』と言ったら終わり」。経営層の理解がなければ、どんなに優秀なエンジニアがいてもDXは進まない。

ただし、理事長の「やろう」だけでは組織は動かない。現場のスタッフが「自分たちのために作られたツールだ」と感じることが大切だった。そのために心がけたこと:

  1. 現場の言葉で話す — 「AIで自然言語処理を…」ではなく「FAXが来たら自動でChatに通知されますよ」
  2. 最初の1人の味方を作る — 全員を説得するのではなく、1人のスタッフが「便利だ」と言えば周りに広がる
  3. 強制しない — 「使いたい人から使ってください」。押し付けると反発が生まれる

第4章 — なぜ「組織化」が必要になったか

チームの結成
51のシステムが稼働し始めると、一人で全部を見ることの限界が見えてきた。問い合わせ対応、障害対応、新規開発、スタッフ教育——すべてが同時に走る。

組織化が必要になった理由は3つあった。

課題具体的な問題
属人化リスク担当者が休んだらシステムの運用がわからない
優先順位の判断「あれも作って」「これも直して」が同時に来る。組織的に優先順位を決める仕組みがなかった
拠点間の温度差5クリニックでDXの浸透度にばらつきがあった

2026年4月、DX推進部が正式に発足した。目的は「作る」ことではなく、「回す」こと。システムを安定的に運用し、現場の声を吸い上げ、優先順位をつけて改善していく。その体制を整えるための組織化だった。

中小医療法人がDXを進めるために

おひさま会の経験から言えることをまとめる。

✅ DXが根づく法人の3条件

  1. 経営トップが「やろう」と言える — 技術に詳しくなくていい。「面白そうだね」の一言でいい
  2. 現場発の課題を起点にする — 「DXしなきゃ」ではなく「これ面倒だよね」から始める
  3. 小さく作って、すぐ使ってもらう — 半年後の完璧より、来週の「ちょっと便利」が信頼を作る

そして、ある程度の規模になったら組織化する。一人の頑張りに依存する体制は、長くは続かない。

DX推進部の発足は、おひさま会にとって「DXが特別なことではなくなった」証でもある。デジタルは日常の一部になった。次に考えるべきは、この仕組みをどう維持し、どう進化させていくかだ。

DXの本質は、テクノロジーではない。「現場が楽になること」を積み重ねた先に、気づけば組織が変わっている。それが、おひさま会が歩んできた道だ。

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